イギリス・ロンドンのBimber蒸留所見学に行ってきました。
ウイスキーと言えばスコットランドが有名ですが、ロンドンでも唯一稼働している蒸留所がありました。
蒸留所見学に行ってきたので体験記を書きます。
Bimber(ビンバー)蒸留所
ビンバー蒸溜所は2011年に設立されたロンドン発・新進気鋭のウイスキー蒸留所です。
フロアモルティングをはじめとした伝統的な製法を用いて、個性的で高品質なシングルモルトウイスキーの製造を使命としているそうです。
2016年5月26日に初めて樽詰めされたBimberのウイスキーは、3年後の2019年9月に1,000本限定で『The First』としてリリース。発売後わずか3時間でが完売し人気を博しています。
その他にも、他蒸留所のウイスキーを独自にブレンドしてブレンデッドウイスキーをつくったり、ジンやウーロン茶も作っています。
蒸留所見学
120分のツアーでお値段は1人40£(約6,000円)。それなりのお値段ですが、ウェルカムウイスキーカクテルを方手に、少人数グループで製造工程をみっちり聞くことができます。また、テイスティング・5£(約750円)の割引券もついてくるのでかなりおトクでした。
最寄り駅はロンドン東部のNorth Acton駅(Central Line)。駅からBimber蒸留所まで徒歩10分でした。
【住所】
Luke Juranek 56 Sunbeam Road, London NW10 6JQ, UK
モルトウイスキー製造の流れは一般的に以下の通りです。Bimber蒸留所見学では、②~⑤の工程が見学できました。
①製麦(モルティング)
②糖化(マッシング)
③発酵(ファーメンテーション)
④蒸留(ディスティレーション)
⑤熟成(マチュレーション)
⑥瓶詰(ボトリング)
まず初めに驚いたのは、見学した②~⑤の工程が1部屋で行われていたこと。
これまで複数回ウイスキー蒸留所見学に行きましたが、いずれも各工程で1部屋が基本。特に樽に入れて数年~数十年熟成させる倉庫はどの蒸留所も設計には細心の注意が払われていた印象です。
新進気鋭のベンチャー企業ということもあり、今は大規模に設備投資をするキャッシュがなく限られたスペースで精一杯生産しているとのことでした。ですが担当者は今後ドンドン拡大していきたい!と力強く語っていました。今後のBimber蒸留所の発展に期待です!
①製麦(モルティング)(※見学対象外)
モルティングとはアルコールの原料となる糖(ブドウ糖・麦芽糖etc.)を得るために、大麦を発芽をさせてモルト(大麦麦芽)とする工程です。
ウイスキーの基本原料は、穀物・酵母・水。
特にスコッチウイスキー・ジャパニーズウイスキーでは穀物の原料として発芽した大麦(モルト)をよく使用します。
かつて質も量もイングランドに劣っていたスコットランドのウイスキーですが、大麦の品種改良の結果、現在スコッチウイスキーの地位の基礎になりました。それほどウイスキー製造者にとって大麦の品質は重要なものとされています。
中でもBimber蒸留所は『最高品質の大麦が最高品質のウイスキーを生み出す』という信念のもと大麦の品質にかなりこだわっている印象です。
現在彼らが使用している大麦は、英国中の農場を訪ねて厳選に厳選を重ねてハンプシャー州にある一軒の農場を選び抜いたそう。ハンプシャー州の海洋性気候は大麦の生産に最適で、中でも農家フォーダム&アレン社は最適な時期に大麦を播種・収穫しているそうです。
さて、大麦の中にはたくさんのデンプンがありますが、この状態のままでは巨大すぎて酵母がアルコールに分解することができません。植物自身はデンプンをエネルギーとして利用するために発芽をします。その時の酵素が、デンプンをエネルギー源(糖)に分解をしてくれます。ここまで分解されれば、酵母でアルコールを生成できます。
この発芽した大麦麦芽(モルト)がウイスキーには必要で、多くの蒸留所がモルトスター(Maltstar)と呼ばれる専門の精麦会社に外注して調達しています。原料である大麦の種類から使用するピートの種類や量、焚きこむタイミングや時間まで細かくオーダーして、均一な品質のモルトが手に入るようにしているそうです。
なお、スコッチで有名なアイラ島のウイスキーでは、島でとれるピートの主成分が海藻であり、これが、独特な正露丸のようなヨード香のもとになるそうです。一方、スコットランド本土で採れるピートは、花や草が主原料とのことで、華やかな香りのもとになるとか。
そんな中、Bimber蒸留所ではモルトを自分たちで生産すべく、英国最古の精麦業者Warminster Maltingsとタッグを組み、『フロアモルティング』と呼ばれる伝統的な製法をとっています。その名の通り、大麦をコンクリの床一面に広げて定期的にかき混ぜ均一に発芽をさせる製法です。
※フロアモルティングのイメージ。蒸留所見学では公開されていないので、過去に訪問したSpringbank(スプリングバンク)蒸留所@スコットランド キャンベルタウン の写真です。
Bimberでのフロアモルティングでは、まずは発芽を促進させるため、大麦を水に72時間ひたして水分を高めます。なお、この時の水がいわゆる「仕込水」とよばれるものです。
その後麦芽を床にまいて5日間かけて発芽状況を管理されます。発芽するとキルンで熱風乾燥させて発育をストップさせます。これ以上生長すると大麦がエネルギー源として糖を使い尽くしてしまいアルコール生成に必要な糖がなくなってしまいます。
つまりモルティングの工程では、銀行に預けてある貯金(デンプン)がATMからおろされて現金(糖)になった瞬間に、睡眠薬をかがせて(キルンで乾燥→生長stop)奪い取っているようなイメージです(?)。
目的のためなら人類はどこまででも残酷になることができますね(?)。
②糖化(マッシング)
粉砕したモルトから糖分を抽出し、麦汁にする工程です。
モルトを粉砕して67~70℃の仕込水を入れてゆっくりかき混ぜながら糖液を抽出します。
尚、糖液を抽出した後の搾りカスはドラフと呼ばれ、通常家畜のエサになるそうです。
③発酵(ファーメンテーション)
麦汁に酵母を入れ、糖をアルコールに変える工程です。
酵母は高温で死滅するため、まずは麦汁を冷却します。その後、ウォッシュバックと呼ばれる炭化した木製のタンクに酵母(Bimber特製)とともに入れられます。このタンクはビンバー社内の樽工場でアメリカンオークを原料に作られているそう。一般に木製のタンクは、ステンレス製のタンクと比較して手入れの手間はかかるものの、乳酸菌の繁殖が活発となるため、香り高く仕上がるとのこと(酵母が分解できなかった糖が栄養をなるそう)。
Binber蒸留所での発酵期間は丸7日間と、業界平均の2倍以上とのこと(タンクは7本あり、それぞれに曜日が割り当てられているそうです)。生産量が制限されますが、オーク材との長い接触によって、より軽く・より複雑でフルーティーな風味が生み出されるそうです。
発酵後のお酒はアルコール度数8〜10%の強いビールのようなイメージとのことです。
④蒸留(ディスティレーション)
発酵で得られた液体をポットスチルで加熱して水とアルコールを分離し、アルコール度を高める工程です。1気圧の下では水の沸騰温度は100℃、アルコール(エタノール)の沸騰温度は78℃なので分離できるという仕組みです。
Bimberではより軽くフルーティーなウイスキーにするために、蒸留器を特注して銅と液体の接触面積が最大になるよう設計されているそうです。発酵で得られた液体は2回蒸留され、1度目はすんぐりむっくりしたポットスチル(愛称ドリス)で、2度目は縦長のポットスチル(愛称アストライウス)で行われます。また、ポットスチルの熱源はスチームではなく、伝統的な直火加熱にこだわっています。
これによりゆっくり力強い蒸留ができ、より深みのあるフルボディなスピリッツに仕上がるそう。
最初の蒸留は、1,000リットルの蒸留器ドリスで行われます。これによりアルコール度数33%の低濃度スピリッツが生成されるとのこと(一般に、1度目の蒸留で得られる液体をローワインといいます)。
その後、ローワインを1,000リットルの小型蒸留器「アストライウス」にて2回目の蒸留を行います。
2度目の蒸留液はでてきた順番にフォアショット・ハート・フェイントと呼ばれ、3つに分けて回収されます。アルコール度数72%のハート部分だけが次の熟成工程を経てウイスキーの原料となります。
フォアショット/フェイントは有害成分や不快なにおいがする成分が含まれていたり、アルコール濃度が高すぎたり低すぎたりするそうです。
写真の瓶詰された青っぽい液体がフォアショットで「かなり有害」とのことでした…。
⑤熟成(マチュレーション)
蒸留で得られた無色透明の液体を樽に詰め、綺麗な琥珀色に変える工程です。
Bimberでは、アメリカ・欧州から最高級のアメリカンオーク・シェリー樽を調達しているそうです。様々な種類の樽を使用しユニークな風味を出したいとのことです。
尚、スコッチウイスキーでは最低3年間の熟成がなければ法的にウイスキーとは認められないそうです。
冒頭でもお話しした通り、2016年に初めて樽詰めされたBimberのウイスキーが3年後の2019年9月にリリースされたのは3年間の熟成期間を意識したものなのかもしれません。
⑥瓶詰(ボトリング)
熟成されたウイスキーを加水して調整し、ビンに詰めて製品とする工程です。
フルーティなロンドンシングルモルトを維持するため、定期的なノージング・テイスティングで瓶詰に最適なタイミングを図るそうです。
瓶詰後の梱包・輸送も同じ部屋で行われていました。限られたリソースの中で精一杯生産している姿勢に感動しました!
テイスティング
見学が終わると待ちに待ったテイスティングの時間!
6種類のウイスキーの飲み比べができました。
お気に入りの銘柄はおかわり可能でした。中にはトレイごと(6種類すべて)おかわりする酒豪もいました…笑
さいごに
ロンドン発の新進気鋭なBimber蒸留所。
スコットランドが有名な中、小規模ながらも拡大を目指して日々奮闘しています。
日々ライブを一生懸命に頑張る地下アイドルを応援したくなる気持ちが分かった気がします(?)
スコッチウイスキーもいいですが、ロンドンにお越しの際は是非、Bimber蒸留所を訪れてみてください!