③発酵(ファーメンテーション)
冷却されたワートはウォッシュバックと呼ばれる発酵槽に移され、酵母(イースト菌)が投入されます。
一般的には、発酵開始から15~18時間が反応のピークで、40~48時間ほど発酵に時間がとられます。
ウォッシュバックは伝統的には木製です。手入れのしやすさからステンレス製であることもありますが、木製では住み着いた乳酸菌や微生物の影響でより複雑な風味が得られるともいわれています。
スプリングバンク蒸留所では、2.1万Lのワートに、75kgの酵母を投入して72~100時間反応をさせて、アルコール分約4.5~5.0%のモロミを生成します。
④蒸留(ディスティレーション)
アルコールは水よりも沸点が低いので、沸点の違いを利用してアルコール分離・濃縮をします(=蒸留)。
蒸留は銅製の容器(ポットスチル)で行われます。入手・加工がしやすく熱伝導率が高いため、銅が利用されています。また、蒸留中には銅が触媒となり不快成分(硫化化合物)を除去し、香気成分の生成にも一役買っているそうです。
蒸留器の熱で洗濯ものが干されていたのが良かったです。笑
スプリングバンク蒸留所では、3つの蒸留器(ポットスチル)があり、これらを使い分けことで生産品を作り分けています。
典型的で教科書的なスコッチウイスキーの生産プロセスです。
『2.5回蒸留』とは?
3回目の蒸留器に、1回だけ蒸留したローワインおよび2回蒸留した蒸留液を投入するため『2.5回蒸留』と言われます。(=2回蒸留と3回蒸留の混合物)
ジェムソンに代表されるアイリッシュウイスキーでは3回蒸留がよく採用されてます。
スプリング蒸留所の最大生産能力は年間75万L!(ウイスキーボトル約107万本!)
そのうち8割がスプリングバンク、ロングロウやヘーゼルバーンがそれぞれ1割生産されるそう。
それぞれのウイスキーの特徴をまとめるとこんな感じです。
蒸留器から出てくる酒質は一定ではなく、不快な香気成分を含んでいたりアルコール濃度が高すぎたり低すぎたりします。そこでスピリットセイフと呼ばれる箱の中で、蒸留器から出てくる酒の中間部分を厳選(=ミドルカット)します。
スピリットセイフに鍵がかかっているのは、脱税逃れを防ぐためだそう。
蒸留を終えてミドルカットが済んだ酒(ニュースピリッツ)がタンクに入れられています。
⑤熟成(マチュレーション)
熟成の目的はニュースピリッツをまろやかなウイスキーへと変化させることです。
スプリング蒸留所では、加水して63.5%にアルコール濃度を調整したのちに樽に充填されます。
樽の種類は主に4種類を使っているそう。
①スモールカスク (small cask) 100L
②バレル (barrel) 200L
③ホグスヘッド (hogshead) 250L
④バット (batt) 500L
一般的には、樽の容量が小さいほど原酒と樽の接触面積が大きくなるので早く熟成が進み、樽の影響が大きくなるそう。
逆に大きい樽は原酒に与える影響が比較的小さいので長期間熟成するのに向いているとのこと。
山積みにされた樽です。写真右奥には『SPRING BANK』の樽山が。
樽を加工した植木鉢。かわいらしいです。
熟成庫の見学です。
静かで涼しげな場所でした。ここで長い年月をかけ、荒々しいニュースピリッツが丸くなってウイスキーへと成長します。さながら人生のようです。
スコッチウイスキーでは最低3年間の熟成がなければ法的にウイスキーとは認められないそうです。
ここで樽からセルロース(カラメル香)、ヘミセルロース(アーモンド香・バター香)、リグニン(バニラ香)といった香味成分がウイスキーに移っていきます。
さいごに
以上2017年にスプリングバンク蒸留所を訪問した体験記でした。
大麦麦芽のピートの炊き込み具合、蒸留の回数を変えて『ヘーゼルバーン』、『スプリングバンク』、『ロングロウ』という個性が全く異なるウイスキーが生産されており興味深かったです。
英国に駐在している間にまた訪問してアップデートしたいです。
それではまた、別の蒸留所見学で!
以下、過去に訪問した蒸留所です!
THE MACALLAN(マッカラン)蒸留所@スコットランド、スペイサイド
THE GLENLIVET(ザ・グレンリベット)蒸留所@スコットランド、スペイサイド
GLENFIDDICH(グレンフィディック)蒸留所@スコットランド、スペイサイド
TOMATIN(トマーティン)蒸留所@スコットランド、ハイランド
GLENKINCHIE(グレンキンチー)蒸留所@スコットランド、ローランド
BIMBER(ビンバー)蒸留所@イングランド、ロンドン